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マーク・ジョンソン著「ホワイトスペース戦略」
Author:Mark W. Johnson
Title:Seizing the White Space
Sub Title:Business Model Innovation for Growth and Renewal

ずいぶん前に読み終わっていたのですが、なかなかアップができていませんでした。今日時点で、読み終わっていてテキスト化できていない本が、5冊もあります!

●序文 A・G・ラフリー[P&G前会長兼CEO] 1837年にロウソク業者と石鹸業者の共同出資により会社が設立されて以来、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は商品のイノベーションを重ねてきた。1879年に石鹸のアイボリーを発売したのを皮切りに、大恐慌のさなかの1933年に史上初の家庭用合成洗剤のドレフト、1946年に史上初の強力洗剤のタイド、1955年に史上はじめて米国歯科医師会の承認を得たフッ素入り歯磨きのクレストを売り出した。その後も、1961年には史上初の紙おむつのパンパース、1986年には史上初のリンス・イン・シャンプーのパートプラス(リジョイ)、1988年には消臭剤のファブリーズと使い捨て掃除用モップのスウィッファー・ダスター、2001年には史上初の家庭用の歯ホワイトニング剤であるクレスト・ホワイトストリップスを市場に送り出した。(p.5)

●しかし、P&Gのように長期間にわたり会社を大きく成長させ続けるためには、既存の中核的な市場で安定的に事業を拡大するだけでは十分でない。本書でマーク・ジョンソンが言う「自社のビジネスの最も中核をなす部分」を変えることが避けて通れない。会社の土台をなすビジネスモデルにイノベーションを起こす必要があるのだ。利益を得る方法を変更し、顧客に提供する価値を変更し、商品を市場に送り出すまでの社内外のプロセスの組み合わせを変更しなくてはならない。(p.6)

●私はこれまでの職業人生を通じて、ビジネスモデル・イノベーションを静的なプロセスではなく、明確な方法論に支えられた総合的な能力と考えるようになった。企業のリーダーは、そういう能力を構築し、強化し、最終的にはそれを継続性のある競争力に変えなくてはならない。(p.6)

●本書『ホワイトスペース戦略』でジョンソンは、ビジネスモデル・イノベーションが力強い成長の起爆剤になりうることを説得力豊かに論じている。ビジネスモデルにイノベーションを起こせば、既存の市場を変革し、あるいは新しい市場をつくり出すことを通じて、ホワイトスペース-既存のビジネスモデルの対象外の領域-に進出し、成長の扉を開ける場合があるのだ。(p.7)

●本書のモデルを通して考えると、ホワイトスペースへの進出を目指す際に陥りがちな2つの落とし穴が見えてくる。1つは、新しい顧客価値提案を見いだしたはいいが、商品化するのが遅すぎるパターン。もう1つは、せっかく画期的な利益創出のモデルを考案したのに、実際のビジネスとして成り立たせられないパターンである。このような失敗にはまり込む原因は、飛躍的なイノベーションのチャンスを生かすうえで必要とされる経営資源と社外のパートナー、社内の業務プロセスを整備できないことにある。変革を成し遂げるためにはまず、自分たちが現在おこなっているビジネスの性格を正しく把握する必要がある。顧客価値提案、利益方程式、主要経営資源、主要業務プロセスの「4つの箱」の枠組みに沿って検討すれば、既存のビジネスを成功させている要素が明確に理解できるはずだ。新しいビジネスチャンスを活用するうえで、既存のビジネスモデルのどの要素を変更すべきかも見えてくるだろう。(p.8)

●まず、イノベーションのプロセスをオープンなものにする必要があった。P&Gはすべてを社内でおこなうことで有名な企業だったが、最近はオープン・イノベーションを目指す「コネクト・アンド・デベロップ」プログラムもよく知られるようになった。この新しいイノベーション・プロセスを取り入れるために、既存の研究開発体制を大きく変更することになった。(p.9)

●このようなイノベーションは、P&Gの研究所のなかだけで生まれるわけではない。また、会社のあり方を全面的に変更することが常に必要なわけでもない。しかし確実に言えるのは、既存のビジネスモデルを深く理解することがすべての出発点だということだ。既存のビジネスモデルで新しいビジネスチャンスを生かせるのかを明らかにする必要があるのだ。(p.10)

●P&Gはこの点を念頭に、会社全体とそれぞれの事業部門のなかに新事業創造を担当する部署を設け、コアスペースに隣接する領域と、そのもっと外の領域-すなわち、商品だけでなくビジネスモデルにイノベーションを起こさないと成功できない領域-で新しいビジネスチャンスを探させ、新事業を開発させることにした。ジョンソンも勧めているように、新事業開発プロジェクトには、コアスペースの事業とは別に独自の予算を割り振り、実績のある優秀なスタッフを配した。(p.11)

●ロサンゼルス北東部の高地の砂漠地帯にあるパームデールは、アメリカ西部の典型的な郊外都市だ。航空宇宙産業の巨人ロッキード・マーチンの誇る先進開発部門「スカンク・ワークス」がしばしばこの町の滑走路を使って、開発中の新しい航空機の試験飛行を実施していることは、地元住民によく知られている。この日におこなわれたのは、「ロッキード・マーチンP791」の最初の試験飛行だった。P791は飛行船と飛行機を足して2で割ったような航空機で、一般に「ハイブリッド飛行船」と呼ばれるタイプのものだ。(p.23)

●ビジネスモデルとはひとことで言えば、その企業がどのようにして一定層の顧客に価値を提供し、利益を得るかを定義するものである。(p.27)

●ビジネスの世界で「ホワイトスペース<空白>」という言葉は一般に、まだ開拓されていない領域や、まだ需要が満たされていない市場という意味で用いられる。本書では、「その企業の既存のビジネスモデルが活動の対象としていない領域」「コアスペースと隣接スペースの外にあり、新しいビジネスモデルを確立しないと生かせない領域」という意味でこの言葉を用いる。(p.28)

●重要なのは、慣れ親しんだ仕事のやり方が通用せず、前例のない手ごわい難題が続々と持ち上がるのがホワイトスペースだということだ。それは、確たる知識が乏しく、推測に多くを頼らなければならない領域。要するに、コアスペースの対極にある世界である。(p.28)

図表2 ホワイトスペースとは?(p.29)
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●同社の創業者キング・ジレットは、繰り返し使用できる髭剃り本体を無償で配布することによって顧客を囲い込んで、利益率の高い消耗品の替え刃を買わせる戦略を実践し、男性用髭剃りの業界に革命的な変化を起こした。アップルはこのジレット・モデルをひっくり返し、言ってみれば替え刃を無償で配布することにより、顧客に髭剃り本体を買わせる戦略を推し進めた。すなわち、iTunesストアで音楽を安価で提供することを通じて顧客を取り込み、高価なiPodを購入させたのである。(p.39)

●発売後わずか3年で、iPodとiTunesストアの売り上げは、100億ドル規模に到達。全社の売り上げの50%近くを占めるまでになった。2002年末の時点で26億ドル前後だった株式の時価総額は、2007年末には1330億ドルにはね上がった。(p.39)

●しかし、グローバル企業のイノベーション関連予算のうち、新しいビジネスモデルを確立するための活動に振りわけられている割合は10%にも満たない。しかも、たとえグローバル企業がビジネスモデル・イノベーションに挑戦しても、ほとんど成功していない。ビジネスモデル・イノベーションの成功例は、大半が新興企業によるものだ。大きな成果が期待できて、しかも企業のトップが大きな関心を示しているのに、どうしてビジネスモデル・イノベーションがうまくいかないのか。その理由は、ビジネスモデルという言葉だけが独り歩きし、ビジネスモデルとはなにかを正しく理解している人がきわめて少ないことにある。ほとんどの人は、いま自分の会社がどういうビジネスモデルに基づいて活動しているかわかっていない。ましてや、どうすれば新しいビジネスモデルをつくり出せるのか、なぜ新しいビジネスモデルをつくる必要があるのか、どういうときに新しいビジネスモデルをつくるべきなのかなど、まるで理解できていない。(p.46)

●新事業を立ち上げようとする企業のほとんどが失敗するのは、正解だと立証できていない行動を取ることを恐れるからだ。その会社や業界で確立されているパターンの枠内で行動することに慣れている人たちは、既存の事業の枠組みに明らかに適合する行動以外を避けようとする。~(中略)~数々の不確実な要素によって視界が曇っていて、成功への道筋がはっきり見えないとき、企業はえてしてビジネスモデル・イノベーションという未知の領域に乗り出すことを拒む。(p.49)

●問題の一端は、ビジネスモデルを論じる際の共通言語がないことにある。これまで、多くの人たちがビジネスモデルについて論じてきた。ピーター・ドラッカーは、ビジネスモデルを「ビジネスの理論」とみなしていたようだ。経営コンサルタントのジョーン・マグレッタは、「企業がどのように機能するかを説明するストーリー」と定義した。~(中略)~しかし私の知る限り、誰一人として、事業活動のどの要素が価値の創造・提供に欠かせないのか、そして各要素の相互作用がどのように企業の成功と失敗を左右するのかという点を明らかにできていない。(p.51)

●成功するビジネスモデルは例外なく、互いに関連し合う4つの要素で構成されている。第1の要素は、顧客価値提案。顧客が解決すべき「ジョブ(=用事)」をそれまでより有効に、あるいは便利に、あるいは安価に実行する助けになる商品やサービス(もしくは、その両方の組み合わせ)を提供することである。ある顧客層に対して、ある価格でどのように価値を生み出すかを表現したものと定義してもいい。~(中略)~第2の要素は、利益方程式だ。企業が自社と株主のために利益という形で価値を確保する仕組みのことである。~(中略)~ビジネスモデルの第3と第4の要素は、主要経営資源と主要業務プロセス。この2つの要素は、企業が顧客と自社に価値をもたらす手立てとなるものである。再現性・拡張性のある形で顧客価値提案と利益方程式を実現するために必要な資産、スキル、活動、行動パターン、仕事の進め方がここに含まれる。(p.52)

●顧客価値提案-一定の金銭的対価と引き換えに、顧客がそれまでより有効に、あるいは確実に、便利に、安価に、重要な懸案を解決したり、課題を成し遂げたりするのを助ける商品やサービスの提供。ビジネスモデルが成功するためには、明確で強力な顧客価値提案が欠かせない。目指すべきは、顧客にとって重要な未解決のジョブを見つけ出し、そのジョブを処理するための商品やサービス(もしくは、その両方の組み合わせ)を一定の価格で提供すること。したがって、まず標的とする顧客層がどのような未解決のジョブを抱えているのかを十分に理解することから始める必要がある。(p.54)

●この2、30年、ビジネスの世界では「顧客ニーズ」と「お客様の声」を重視すべきだとしきりに言われてきた。しかし現実には、顧客ニーズをあまりに漠然としか理解していなかったり、もっとひどい場合には、既存の商品やサービスを前提にしか顧客ニーズを考えていなかったりするケースが多い。ホワイトスペースで新たな顧客価値提案を確立しようと思えば、顧客がどのような商品を買いたがるかを推測するのではなく、ある環境で顧客がどのようなジョブを成し遂げたいと思っているかを考えるべきだ。(p.55)

●ビジネスモデルを成功させるためには、ジョブと提案の2つの要素で構成される顧客価値提案が不可欠だ。顧客価値提案の質は、次の3つの点に左右される。
 1 その顧客価値提案で解決されるジョブが顧客にとってどの程度重要か。
 2 顧客が既存の選択肢にどの程度満足しているか。
 3 ほかの選択肢と比べて、その提案がどの程度、ジョブを有効に解決できるか。
概して、ジョブの重要性が高く、ジョブと提案の組み合わせが適切で、料金が安いほど、顧客にとってその顧客価値提案の価値が大きくなる。(p.58)

●成功する顧客価値提案の特徴は、シンプルでエレガントであること。しかし、この条件を満たすのはときとして難しい。企業はおうおうにして1つのジョブに集中せず、一度にたくさんのジョブに対応しようとする。そうすると、あれこれ手を出した挙げ句、1つたりとも成功しなくなる。その点、顧客価値提案を絞り込めば、対応するジョブの数を限定できる。それにより、新しい試みに対して過度に意欲的になることに歯止めがかかり、顧客がお金を払いたいと思わない(あるいは、お金を払わされることに不満を感じる)ような要素を商品やサービスに盛り込みすぎる事態を防げる。顧客価値提案を誰にでもわかるように簡潔に表現できないときは、その内容が十分に明確になっていないか、絞り込みが十分でないかのいずれかだ。一方、顧客価値提案を絞り込むことを通じて明確なビジネスモデルを築ければ、標的とする新しい顧客層を獲得するために既存のビジネスモデルを刷新する必要があるのか否かについて的確な判断をくだしやすい。(p.62)

●商品やサービスの価格は、顧客価値提案によって顧客に提供される価値を大きく左右する。利益方程式で価格がどのような役割を果たすかは、その企業が大衆向けのビジネスを築くか、富裕層向けのビジネスを築くかによって異なる。~(中略)~たとえばタタ・モーターズの場合、オートバイで移動している一家に安全な乗り物を提供するという顧客価値提案を実現しようと思えば、10万ルピーで自動車を販売する以外の選択肢はほぼなかった。そこで、10万ルピーという価格を前提に利益方程式を築く必要があった。一方、富裕層向けのビジネスであれば、顧客価値提案が先にありきだ。それを実現するためにどの程度のコストがかかるかによって、価格が決まる。ホールフーズは、顧客のジョブを解決するために上質な生鮮食品を扱う必要があるとわかっていたので、比較的高い価格で商品を売ることを前提にした利益方程式を採用した。(p.68)

●すでに成功している企業はたいていコスト構造が確立されており、間接費のあり方を変えることがとりわけ難しい。そのため、新しいビジネスモデルのコスト構造を考える際、既存事業の間接費の状況を前提にしようという意識が強くはたらく。しかしそういうアプローチは、考え方の順序を間違えている。新しいビジネスモデルを確立するつもりであれば、そのビジネスモデルの顧客価値提案に即して間接費を決定すべきだ。「間接費はすでに決まっていて、変更しようがない」という考え方は捨てたほうがいい。(p.70)

●既存企業が新たな飛躍的成長のチャンスを追及するのに二の足を踏む最大の理由は、利益率だけですべてが決まるかのごとく考えて、新しいビジネスモデルの利益率が低すぎると不安をいだくことにある。利益率が低いと間接費をまかなえず、会社の存立が脅かされると、企業の戦略立案や財務の担当者は概して考える。そこで、既存のコアスペースの事業より低い利益率しか期待できそうにない新事業のアイデアをさっさと葬り去ってしまう。しかし、利益率は利益方程式の一要素にすぎない。ビジネスをおこなう際に目指すべきは、一定レベルの利益率を確保することではなく、目標とする利益を得るために必要な水準の利益率を確保することなのである。(p.71)

●たとえばタタ・モーターズの低価格車ナノの場合、革命的な低価格を実現しようと思えば、1台あたりの粗利益率を大幅に減らし、コスト構造全体を自動車業界の歴史で前例がない水準まで引き下げなくてはならなかった。それでも経営資源の回転率を高めて販売台数を増やせれば、事業全体として利益を得られると、ラタン・タタは考えた。(p.73)

●世界が結びつきを強めるにつれて、企業は主要経営資源を自社ですべて保有しなくてもよくなり、必要な資源をパートナー企業に提供してもらうケースが増えている。たとえばトーマス・フリードマンの著書『フラット化する世界』では、日本の東芝とアメリカの宅配便会社UPSの画期的なパートナー関係が紹介されている。アメリカでUPSが配送だけでなく、商品の保証や修理など、消費者に見えない後方のサービスを請け負うことにより、東芝はこれらの業務から解放されて、自社の中核的な強みである商品開発・製造に力を注げるようになった。(p.75)

●企業がビジネスモデル・イノベーションの明確な枠組みをもたずにホワイトスペースに乗り出そうとするのは、建築業者が設計図なしに家を建てはじめるのに等しい暴挙だ。(p.84)

●従来とまるで性格の違うレースでライバルと渡り合い、勝利するためには-つまり、ホワイトスペースで新しい顧客価値提案を打ち出し、顧客の新しいジョブ(=用事)を解決するためには-それまでとまったく異なるビジネスのプラットフォームを築かなくてはならない。必要なのは、ビジネスモデルを刷新すること。ビジネスモデルの4つの要素をことごとく変更し、その相互作用の仕方を改めるべきなのだ。(p.89)

●では、新しい顧客価値提案を実現しようとする際、ホワイトスペースに進出して新しいビジネスモデルを築く必要があるのは、どういう場合なのか。それは、以下のようなケースだ。
・既存の利益方程式、とくに間接費のコスト構造と経営資源の回転率の一方または両方を変更しなくてはならない場合。
・主要経営資源・業務プロセスを新たに多数導入しなくてはならない場合。
・事業をおこなうために、これまでとはまったく異なるルールや規範、基準を取り入れなくてはならない場合。
3つの条件に1つでも当てはまれば、その新しいビジネスチャンスはその企業にとってホワイトスペースに存在しているとみなせる。つまり、市場で競争していくために、新しいビジネスモデルが必要となる。(p.90)

●機能に加えて、品質と信頼性の面でも顧客のニーズがほぼ満たされると、競争の基準が再びほかの要素に移る。もっと迅速に、あるいはもっと手軽に、あるいはもっと自分のニーズにぴったり合わせた形でジョブを解決する商品やサービスが欲しいと、顧客が考えるようになる。競争の舞台が利便性とカスタマイズに移るのである。~(中略)~たとえば、北米とイギリスで事業をおこなう「ジップカー」やドイツでダイムラー社が立ち上げた「カーツーゴー」などのカーシェアリング(自動車の共同利用)サービスは、利便性を前面に押し出して市場に参入した。(p.97)

●シーツは最初に、新事業がダウ・コーニングの既存の事業体のなかで成功できるかどうかを確認したいと考えた。そのために、シミュレーションをおこない、新しい厳格なルールに社内の既存のスタッフとシステムが対応できるかをテストした。結果は大失敗だった。新しいビジネスのルールは、この会社の既存の行動様式とあまりに相容れないものだったのだ。これで進むべき道がはっきり見えてきた。新しいビジネスを成功させようと思えば、既存事業と切り離すしかない。新しいチャンスを押しつぶすことなく育てていくためには、独自のアイデンティティをもつ新しい事業部門を立ち上げる必要があった。こうした判断のもと、ダウ・コーニングはホワイトスペースをものにするために、ザイアメターという新ブランドを発足させた。(p.101)

●しかしメラいわく、経営資源の面で最も手ごわい課題は、営業チーム-これも主要経営資源の1つだ-にまったく新しい仕事の仕方を覚えさせることだった。リース型サービスは、30分ほどのセールスで売り込めるような代物ではない。商品を購入するのではなく、サービスを購入するように顧客の発想を転換させるためには、数日、あるいは数週間、ときには数カ月にわたり商談を重ねなくてはならない。(p.112)

●ヒルティの営業担当者は建設現場の仮設事務所のなかで現場監督や購買担当者と商談をすることに慣れていたが、新しいビジネスモデルのもとでは顧客企業の本社の会議室でCEOや財務責任者と向き合う必要があった。顧客企業でこの種の長期契約の決定権をもつのはたいてい、幹部だけだからだ。(p.113)

●当初、高価格の翌日配送サービスは、一部の企業の特殊なニーズにこたえるニッチ(隙間)市場のビジネスにすぎなかった。状況が変わったのは、1970年代末にアメリカ政府が規制緩和をおこない、フェデックスが手紙と書類を扱えるようになったときだった(それまでは政府の規制により、手紙と書類の配送は郵政公社とUPS社の独占状態だった)。一般の消費者のなかにも、書類や小包をほかの都市に翌日までに送りたいと思っている人が大勢いて、そういうサービスに高い料金を支払ってもいいと思っていた。そのニーズを満たすうえで、フェデックスのビジネスモデルは他社のビジネスモデルよりはるかに適していた。郵政公社とUPSは、書類の航空便ビジネスで新規参入勢力のフェデックスに太刀打ちできなかった(UPSにとって、航空便による翌日配送サービスは既存のビジネスの延長戦上にあったのではないかと思う人もいるかもしれない。しかし、同社のビジネスモデルの中心はあくまでも陸上輸送で、航空部門は他社に依存していた。そのため当初は、市場が望むような迅速・確実な配送を実現できなかった)。郵政公社とUPSがビジネスモデルを転換してフェデックスに追いつくまでには、何年もの時間を要した。(p.117)

●ミネソタ州のミニットクリニック社(現在は大手ドラッグストアチェーン、CVSケアマーク傘下)は、ドラッグストアの店内にナース・プラクティショナー(簡単な医療行為をおこなう権限をもつ看護師の上級職)を配置して、軽い病気であれば予約なしに30分以内で診察を受けられるようにし、時間の障壁を解決した。(p.123)

●中国の家電メーカー、ギャランツ(格蘭社)は1990年代、スペースが狭いうえに電力供給量が少ない中国のアパートでも利用できるように、小型で電力消費量の少ない電子レンジを開発した。中国の消費者にも受け入れられる低い価格で利益をあげられるビジネスモデルを築いた結果、同社はこれまで顧客になりえなかった非消費者の巨大な市場を開拓することに成功し、世界の電子レンジ市場で40%近いシェアを握るまでになった。(p.124)

●問題解決方法の進化の各段階には、それぞれに適したビジネスモデルの類型がある。非体系的な問題解決の段階とパターン適用の段階の初期に最も適しているのは、「ソリューション工房型」と呼ばれる類型だ。一般化できない問題に対して個別の解決策を提供するビジネスモデルで、医院や法律事務所、会計事務所、コンサルティング会社など、専門的なサービスを提供するビジネスに向いている。この種のビジネスにとっては、人材と知識が最も重要な経営資源だ。提供するサービスがどの程度の成果を生むかも、業務遂行のためにどのくらいの時間を要するかも、前もって正確には判断できないので、サービス提供の回数を基準に料金を請求する場合が多い。概して利益率が高い半面、間接費がかさみ、経営資源の回転率が低い。問題に関する知識が増えて、パターンに当てはめて明確な判断をくだせる段階になり、さらには法則に基づく判定をおこなえる段階に達すると、「バリュー付加プロセス型」のビジネスモデルが適するようになる。このタイプのビジネスでは、価格を引き下げるかわりに、問題解決を提供する件数(つまり、商品やサービスの販売数量)を増やす。結果の予測可能性が高まるので、実際に提供する商品やサービスの数量を基準に料金を受け取ることができる。ソリューション工房型に比べて、利益率が低い一方で、間接費が少なく、経営資源の回転率が高い。利益をあげるためには、商品やサービスを大量に開発・製造・販売する必要がある。その点、この類型のビジネスは事業の規模を拡大することが可能なので、知識を民主化して、商品やサービスを利用できる顧客の層を広げられる。製造業の大半に加えて、ミニットクリニックのようなタイプのサービス業もこの類型に分類できる。(p.134)

●中国の家電メーカー、ハイアール(海爾)は、2004年夏のある暑い日に、ニューヨークのタイムズスクエアに臨時の売店をオープンして、低価格のエアコンを販売した。売りさばいたエアコンは、わずか7時間で7000台。同社は、アメリカでブランドの知名度を高めることに成功した。(p.147)

アガシの発想は違った。テクノロジー以外の要素にも目を向けたのである。まず、消費者の未解決のジョブとはなにかを考えた。~(中略)~第1に、ほとんどの消費者は自動車のシェア(共有)を望んでいない。マイカーは自由と独立の象徴。いくら環境保護のためでも、それを手放してもいいと思う人は圧倒的な少数派だ。カーシェアリングの普及がなかなか進まない一因はこの点にある。第2に、消費者は少なくとも5人以上が乗れる自動車を求めている(2人乗りのゴルフカートみたいな車で満足する人はほとんどいない)。第3に、消費者は価格や維持費が高すぎる車に乗るつもりがなく、他人に見せて恥ずかしい車に乗るつもりもない。そして第4に、消費者は燃料補給を年に50回以上おこなうのが嫌で、1回の燃料補給に5分以上かけたくないと思っている。(p.157)

●さらに掘り下げて考えると、消費者にとって、自動車が2つの異なるジョブを担っていることがわかってきた。ほとんどの人は、毎日平均20キロ程度の範囲内を自動車で移動しているにすぎない。このジョブを解決するだけであれば、既存の電気自動車用バッテリーで十分に間に合う。しかし人々はときおり、もっと遠くまで出かける。そのジョブは、現在の電気自動車では解決できない。大半の消費者は自動車を2台購入する経済的余裕がないし、たとえ金があっても短距離移動専用の自動車をもう1台買おうとは思わないだろう。常識的に考えて、ガソリンに依存しない社会をつくるという構想を実現するためには、短距離移動と長距離移動の2つのジョブを1台でこなせる電気自動車を市場に送り出す必要がある。自動車業界が電気自動車の開発に行き詰まっている原因は、この「距離の壁」にあった。(p.158)

●私は、こうした企業の実例や、私が会長を務める戦略イノベーション・コンサルティング会社イノサイトの仕事で関わった企業、同僚たちと共同で調査した企業の事例からビジネスモデル・イノベーションのパターンと法則を抽出し、体系的な方法論の形にまとめた。勘や運頼みで飛躍的成長を目指すのではなく、ホワイトスペースで成功するためにビジネスモデルを意識的に設計・導入するプロセスを示したいと考えたのだ。そのプロセスは、大きくわけて3つの段階で構成される。第1のステップでは、ビジネスモデルのことはまったく意識しなくていい。未解決の重要なジョブ(=用事)を抱える現実の顧客のニーズを満足させる方法をまず考える。顧客のジョブを明確に理解できればできるほど、強力で長続きする顧客価値提案を打ち出せる。第2のステップでは、どうやって顧客のジョブを解決しながら利益をあげるかという青写真を描く。~(中略)~続く第3のステップは、ビジネスモデルの導入の段階である。抽象的な顧客価値提案と利益方程式を現実化するために、どのような主要経営資源・業務プロセスを準備すべきかを明らかにしていく。既存の事業体のなかで新しいビジネスモデルを実践すればいいのか、それとも新しい事業部門を立ち上げる必要があるのかという判断もくだす。現実には、最初から顧客のジョブが明確になっているケースは珍しいし、初期段階で青写真の細部まで肉づけがなされている場合ばかりでもない。ビジネスモデル・イノベーションを目指すうえでは、ビジネスモデルの設計と導入を固定的な一方通行のプロセスとみなすのではなく、試行錯誤を繰り返すプロセスと考えるべきだ。(p.168)

●私たちはどうしても、「内からの視点」で市場を見ようとする。自社の既存のビジネスと既存の商品・サービスを基準にものを考える傾向があるのだ。しかし、ビジネスモデル・イノベーションを目指すのであれば、内からの視点を捨てる必要がある。忘れてはならない。探すべきなのは、顧客の未解決のジョブだ。「未解決」だということは、いま自社がそのジョブを解決できていないことを意味する。それは、現状で自社の顧客でない層が抱えているジョブの場合も多いだろう。これまでどんなに長い間、既存顧客に商品やサービスを提供してきたとしても、市場の未解決のジョブをすべて把握しているなどと思い込んではいけない。老舗の大企業の経営者のような発想ではなく、これから新しいビジネスを始める起業家のように、つまり既存の顧客が一人もいないつもりで、ものを考えるべきなのだ。(p.173)

●デントコーのような状況におかれた企業はほとんどの場合、市場を分析するために、歯科医院経営者の意見を聞こうとする(直接話を聞く場合もあるし、市場調査をおこなう場合もある)。端的に言えば、「あなたは歯科機材になにを求めますか」と尋ねるのだ。こうした手法は、「顧客ニーズに基づくアプローチ」もしくは「顧客の声を重視するアプローチ」と呼ばれる。一見すると、顧客中心主義を実践するうえで理にかなった方法に思えるかもしれない。しかし、そうとは言えない。理由は2つある。第1に、自社の商品になにを望むかを顧客に尋ねれば、会社が予想していない新鮮な意見ではなく、「商品をもっと安くしてほしい」「もっと小型にしてほしい」「もっと使いやすくしてほしい」「もっと機能を増やしてほしい」というようなありきたりの要望しか寄せられない場合が多い。第2に、この手法を用いる場合、商品の機能や顧客の性別・年齢層などを基準に市場をセグメント化(細分化)して考える傾向があるが、その線引きが顧客のジョブと無関係になされる危険がある。異なるジョブを抱えている顧客を十把一絡げにしたり、ごく稀に、同じジョブを抱えている顧客層をいくつかに分割して考えたりする。(p.175)

●私に言わせれば、顧客ニーズに基づく市場分析は、会社に飛躍的成長をもたらす顧客価値提案を打ち出すうえでは誤った手法だ。本当の意味で「顧客中心主義」の発想をするつもりであれば、顧客に「なにが必要ですか」と尋ねるのではなく、「どのような課題を処理したいとお考えですか」と問うべきである。この問いが「ジョブに基づくアプローチ」の出発点になる。デントコーが「どのような課題を処理したいとお考えですか」と一般歯科医と歯列矯正専門医に尋ねたところ、それまで想定していたのとまったく異なる市場セグメントが浮かび上がり、本当に重要な情報がいくつか見えてきた。まず判明したのは、一般歯科医も歯列矯正専門医も例外なく、歯科医院のビジネスを成功させたいと考えていることだ。言わずもがなに思えるかもしれないが、幻想の市場セグメントに惑わされる状況に終止符を打てた意義は大きかった。歯科医が専門分野ごとに硬直的に分類されるのではなく、歯科医全体に多くの共通点があるのだと理解できた。(p.176)

●顧客の未解決のジョブを見いだそうとする際に忘れてならないのは、機能面のジョブだけでなく、情緒的・社会的な面のジョブも考慮に入れることだ。この3つの側面が一体となって、顧客のジョブを構成している。(p.181)

●シャイ・アガシがベタープレイスの顧客価値提案を確立する過程の早い段階で気づいたのは、環境保護の重要性を理解している人でも、マイカーに対する情緒面でのこだわりを捨てられないという点だった。ガソリンの消費量を減らすために、安っぽい電動三輪車に乗ってほしいと呼びかけても効果がないのだ。他人に見られて恥ずかしい車は買ってもらえない。消費者が走行可能距離にこだわることにも、アガシは気づいた。実際のところ、ほとんどの人は1日にせいぜい20キロほどしか自動車を運転しないが、500キロくらいは給油なしで走れる車でないと、買いたいと思わない。ベタープレイスは、顧客のジョブのこのような側面も解決するビジネスモデルを築いた。(p.181)

●顧客価値提案を設計する際は、顧客のジョブを念頭においたうえで、次の質問を自分に問いかけることから始めるといい。このジョブを解決するには、商品を提供するのがいいのか、サービスを提供するのがいいのか?それとも、両者を組み合わせるのがいいのか?商品を提供すると決めた場合は、さらに以下の問いを考える。その商品は、耐久財にすべきなのか、それとも非耐久財にすべきなのか?商品の機能を絞り込むべきなのか、それともたくさんの機能を盛り込むべきなのか?顧客サポートを充実させる必要があるのか、それともその必要はないのか?商品を顧客に直接販売するべきなのか、それとも販売業者を通すべきなのか?顧客は頻繁に商品を必要とするのか、それともときどき必要とするだけなのか?価格設定と支払い方法についても、同様に基本的な問いを検討すべきだ。即金での支払いを求めるのか、それともローンにも対応するのか?価格は一律に固定するのか、それとも交渉の余地を残すのか?一括払いにするのか、それとも分割払いにするのか?こうしたさまざまな選択肢を検討する際は、190~193ページの図表27~30のように、レバー上げ下げすると目盛りの上で針が動く機器を思い浮かべると理解しやすい。(p.187)

●適切なビジネスモデルにたどりつくまでには、おそらく大幅な変更が避けられない。それなのに企業の経営幹部は、有望な数字を見ると、それ以外のプランに考えが及ばなくなり、いかなる代償を払ってでもそのプランを実現しようとする場合が多い。そういう態度を取ると、顧客のジョブを解決するという本来の目的からことごとく逸脱しかねない。商品やサービスに余計な機能がつけ加えられ、不可欠な機能が取り除かれてしまう。目先の財務目標に従って資源の分配がなされるようになり、顧客価値提案の実現が二の次になる。利益方程式を性急に確定させすぎたり、それどころかコアスペースの利益方程式を無理やり押しつけたりすれば、やがて想定外の状況に直面してあわてる羽目になる。その商品をつくるのに、どれくらいコストがかかるのか?一単位あたりの利益率はどの程度なのか?間接費をまかなうには、商品をどれくらい販売する必要があるのか?どういう形式で利益を得ることが望ましいのか?こうした点については、新しいビジネスについて理解が深まるにつれてめまぐるしく状況が変わり、選択肢も変わる場合が多い。経営者がこの点を理解していないと、すぐに期待どおりの数字が得られないことを理由に、新しいプロジェクトを早まって打ち切りがちだ。(p.196)

●新しい利益方程式をともなうビジネスについて検討するときは、いわば「逆損益計算書」をつくる発想で臨むと有効な場合が多い。普通の損益計算書は、売り上げから出発して、コストと利益率を計算に入れて利益を割り出すが、逆損益計算書は、どの程度の利益をあげる必要があるかという点から出発する。(p.197)

●最も重要なのは、ビジネスモデルの育成期に既存事業の干渉を許さないことだ。この点の重要性は、どんなに強調しても強調し足りない。「新しいものを創造する際に大切なことの一つは、コントロールしすぎないことだ」と、オンラインDVDレンタル会社ネットフリックスの共同創業者リード・ヘースティングスは述べている。「私たちの会社では、コントロールではなく、環境づくりと価値観の浸透を通じてイノベーションを後押ししている。イノベーションを支援することはしても、管理したり、統制したり、決まった手続きに従わせたりはしない。イノベーションには高度の創造性が必要なので、そのようなコントロールは適切でない」。端的に言えば、育成期には、業務プロセスを洗練化することより、経営資源を整備することに力を入れるべきなのだ。(p.207)

●ビジネスモデルを成功させるためには、アイデアが大筋で間違っていないことをかなり短い時間で実証する必要がある。売り上げの拡大を急ぐ必要はないが、早い段階で収益性の裏づけが求められる。(p.213)

●新しいビジネスが育成期から加速期に移行すると、足がかりとなる小規模な市場だけでなく、もっと広い市場で事業を展開するようになる。その際、先をあせってはならない。ZARAがファッション業界屈指の急成長を遂げられた一因は、時間をかけて辛抱強く市場を広げたことにある。当初はスペイン国内に出店を限定し、足がかりとなる地元の市場で利益をあげられる体制を築くことに専念した。はじめてスペイン国外に店舗を設けたのは、ブランドの立ち上げから10年以上たった1988年。しかもその場所は遠く離れた国ではなく、隣国ポルトガルの都市ポルトだった。(p.216)

●成功する確率が最も高いのは、新しい事業が十分に軌道に乗るまでコアスペースの既存事業と完全に分離する場合だ。大半の企業は、社内に縄張り意識がはびこっている。それぞれの部署が自分たちの「領土」を守ろうとし、要求を通そうとする。そういう内部対立はビジネスモデル・イノベーションの足を引っ張りかねない。「大きな部署が小さな部署を支配しがちだ」と、アウトドアファッション素材のゴアテックスで有名なW・L・ゴア・アンド・アソシエーツ社のテリー・ケリーCEO兼社長は言う。「新たなチャンスの芽が摘まれないように、組織を慎重に分割すべきだ」(p.218)

●おおよその指針としては、以下の条件に当てはまる場合、新しいビジネスモデルを既存事業の組織と分離した方がいい。
・既存事業と大幅に異なるビジネスのルール、評価基準、行動規範が求められる場合。
・顧客価値提案を実現するために、既存事業と明確に区別されたブランドが必要な場合。
・既存事業に破壊的な影響を及ぼす(要するに、既存事業よりきわめて低い利益率でビジネスが成り立つ)ことが予想され、しかも、既存事業より固定費をはるかに低くおさえることおよび経営資源の回転率を大幅に高めることの一方または両方が求められる場合。
一方、新しいビジネスモデルを既存事業に統合できる可能性があるのは、次のケースだ。
・既存事業との差別化が主に経営資源と業務プロセスの面でおこなわれ、利益方程式が既存事業とおおむね同じ場合、もしくは既存事業より商品やサービス1単位あたりの利益率が高い場合。
・既存事業のブランドに対する評価を大幅に高められる場合。
・既存事業を改善できる場合。(p.219)

●「大企業はイノベーションに投資するのが難しい」と、アメリカの家電小売大手ベストバイのCEOを務めたブラッド・アンダーソンは述べている。「新しいビジネスのやり方がウォール街の金融・投資関係者に理解されにくいことも一因だが、それ以上に大きい要因は、社内の人間が新しいアイデアの価値を認めず、新しい事業を成功させるために必要な資源と支援を十分に与えないことだ」(p.222)

●数々の研究によると、企業買収は期待どおりの結果を生まない場合が多い。推定50~80%のケースは、両社の業績の合計が合併前より高まっていないという。(p.223)

●『わが社のように創造性を要求される企業にとってビジネスの核をなすのは、実際に商品をつくる人たちです』と、リッチティエロ氏は述べた。『ほかの会社を買収して人材を獲得し、ビジネススクールで教わるとおりに新旧事業の相乗効果を生み出そうとしても、うまくいきません。そういうやり方は通用しないのです。成功するのは、優秀な人材が最良の結果を出せるように舞台を整える企業です。その点を理解するまでに、私たちは少し時間がかかりました。この業界では、帳簿の数字とにらめっこしてばかりの財務担当者は、エイリアン映画で宇宙人に食い殺される脇役程度の存在でしかありません。財務の人間に会社を動かさせても胸躍らないし、成果もあがりません』」(p.227)

●ビジャイ・ゴビンダラジャンとクリス・トリンブルが共著『戦略的イノベーション-新事業成功への条件』で指摘しているように、既存事業と明確に異なるビジネスモデルを擁する事業を買収した場合は、どの要素を既存事業から借用し、どの要素を無視し、どのような新規の要素を取り入れるべきかを見極める必要があるのだ。(p.228)

●進歩が起きるときは、いつも同じパターンが繰り返される。最初は、無視される。その後は、頭がおかしいと言われる。次は、危険だと言われる。やがて、沈黙が生まれる。そして気がつくと、誰も反対を唱えなくなっている。-トニー・ベン(イギリスの元国会議員)(p.229)

●この時期、コダックの社内の研究所は素晴らしいテクノロジーを生み出していたが、新たに売り出される商品は精彩を欠いた。「フィルムと競合する可能性のあるものを片っ端からはじき出す抗体が存在するかのようだった」と、元最高技術責任者のビル・ロイドは述べている。(p.234)

●市場に未解決のニーズがあることに社内の誰かが気づき、そのニーズを満たすための素晴らしい顧客価値提案を考案する。社内で強い影響力をもつデザインチームは、そのアイデアに賛同するが、既存のデザインの枠組みで対処できるように、アイデアに少し修正を加える。次に、マーケティング部門が口をはさみ、既存の顧客層にもっとアピールできるように、さらにいくつか修正をおこなう。続いて、強大な権限をもつ財務部門が過去の成功パターンに沿うように、価格、利益率、コスト構造を修正する……という具合に、延々と修正が続く。こうして出来上がったフランケンシュタインの怪物のような代物は、誰のニーズにもこたえられない。(p.235)

●「どこにもかならず、『その案には賛成だが、しかし……』と言う人がいます。反対する理由を探している人たちがいるのです」(p.240)

●企業が新しい成長のチャンスを検討する際にしばしば陥るのがクレイトン・クリステンセンの言う「限界費用のドクトリン」の落とし穴である。新しい顧客価値提案を実現するために新しい能力やインフラへの投資が必要なとき、財務部門はたいてい、こう主張する。「どうして、いま新しい機械を買わなきゃいけないんだ?既存の機械を使い続ければ、限界費用が半分や3分の1ですむのに。古い機械がまだ使えるじゃないか」。そのとき財務担当者の目に見えているのは、既存の機械で商品をつくる際に必要となるわずかな変動費だけだ。機械を導入するために、すでに多額の予算をつぎ込んでいることを見落としている。この発想でいけば、新しい機械を導入して新しい商品をつくるのが割高に見えて当然だ。新旧それぞれの機械を用いる場合の限界費用を比較するアプローチは、一見すると正しそうに見えるが、フェアな比較とは言えないのである。新たに営業チームをゼロからトレーニングして新しい商品を販売させるより、既存の営業チームを使って既存の商品を販売させるほうがコストをおさえられるという考え方も、同様の過ちを犯している。(p.241)

●新しいビジネスモデルにとってとりわけ有害なのは、既存のビジネスモデルで適用されているルールだ。既存のルールにとらわれると、未知のものを避けることが合理的な判断だと思い込みやすい。既存事業のルールを新事業に機械的に当てはめる危険性が十分に理解されていない場合がある。危険性がよくわかっていても、知らず知らずのうちに落とし穴に陥ってしまう場合もある。(p.243)

●ビジネスモデル・イノベーションに取り組むミドルマネジャーたちは、既存事業のルールに従わなくてもいいのだという確信をもてないと、新しいビジネスモデルを採用することが自分自身と会社にとって最良の選択だとなかなか考えられない。そういう人たちがことのほか石頭だというわけではない。旧来のビジネスモデルに対する義務から解放されていないことに、問題の原因がある。コアスペースのビジネスを切り回し、割り当てられた時間と予算の範囲内でものごとをやり遂げる責任を担わされ続ければ、部署の責任者は新事業の予算上・業務上の課題を処理することに困難を感じても不思議でない。(p.244)

●新事業が実を結ぶまでには、ときとして長い時間がかかる。それに、ビジネスモデル・イノベーションは本質的に不確実なものだ。安定した売り上げを本格的に得られるまでに何年かかるか予測がつかないし、コアスペースでイノベーションを目指す場合に比べて失敗する確率も高い。合理的な考え方をする人物であれば、昇給や昇進の際に評価されない活動に取り組もうとは思わないだろう。(p.245)

●ホワイトスペースをものにしたいのであれば、経営陣は、既存事業の成長を持続するための投資と、新しいビジネスモデルのための投資のバランスを取らなくてはならない。新しいビジネスモデルを担当するチームの設置にはゴーサインを出し、そのチームを保護して育てる必要がある。設置するチームはあまり大規模でないほうがいいが、新しい事業にほぼ専念させることが望ましい。コアスペースの既存事業の業務と掛け持ちをさせてはならない。また、そのチームには、独自のビジネスのリズムに従って行動する自由を認めるべきだ。既存のやり方を押しつけると、うまくいかない。既存のルールを厳格に適用するのではなく、新しい顧客価値提案にふさわしい新しいルールと評価基準を確立する権限をもたせる必要がある。そういう権限を与えられるのは、経営陣だけだ。(p.248)

●「組織は戦略に従う」と述べたのは高名な経営史学者のアルフレッド・チャンドラーだが、経営者のなかには、新しい戦略を打ち出せば、それを実践するための組織のあり方やシステムがおのずと形成されると思っている人が多い。しかし、その期待はしばしば裏切られる。本書で見てきたように、一般的に言って、適切なシステムを構築しなければ、戦略を有効に実践できないのである。(p.249)

●たいていの企業は、コアスペースの既存事業を漸進的に成長させることを目標に、毎年決まったスケジュールに沿って計画的に企業戦略を立案する。しかしコアスペースのシステムと発想に基づいて戦略立案をおこなう限り、ほとんどの場合、コアスペースのビジネスモデルにそなわっている能力の範囲内の戦略しか考案されない。この点で、大半の企業は戦略立案の取り組みで根本的な過ちを犯している。(p.249)

●ピーター・ドラッカーは、かつてこう書いた。「いかなる企業も、なんらかのビジネスの理論に従って行動している……長期間にわたって有用であり続ける強力な理論もなかにはあるが……永久に通用する理論はない。最近はとくに、長持ちする理論が少ない。いずれにせよ、ビジネスの理論は例外なく、いつかは時代遅れになり、通用しなくなる」。(p.253)

●アマゾン・ドットコムは、さらに前に進み続けた。携帯情報端末「パーム」のハードウェア製造をおこなうパームワン社でハードウェア・エンジニアリング担当副社長を務めていたグレッグ・ゼアーを招聘し、「126研究所」を開設した。この研究所が開発した最初の商品である電子書籍端末「キンドル」は、2007年後半、新しいビジネスモデルとともに市場に送り出された。(p.256)

●ホワイトスペースをものにするうえでは、大きな目標を掲げることが不可欠な半面、小さな規模で新しい取り組みを始めることも重要だ。足がかりとなる市場を見つけて、あわてずに新事業を育成していけば、ビジネスモデルのさまざまな仮説を検証し、必要に応じて修正を加え、さらには、そのビジネスモデルが生み出す価値を最大化するうえで必要となる主要経営資源・業務プロセスを確立するための時間と場所を手にできる。(p.258)

●2008年にクレイトン・クリステンセンとSAPのヘニング・カガーマンCEO(当時)と共同でハーバード・ビジネス・レビュー誌に発表し、マッキンゼー賞を受賞した論文「ビジネスモデル・イノベーションの原則」は、その研究成果をまとめたものである。(p.263)
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