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畑村洋太郎+吉川良三著「危機の経営」
この本は、2009年9月に発売された頃から読もうよもうと思っていたのですが、なんだかんだで一年も過ぎてしまいました。ちなみにこの本、Amazonの古本でも全然出なかったんです。今回の購入にあたっては、Amazonクーポン券を利用しました!




●日本のものづくりに携わっている人たちは非常に真面目で、昔から「いいものをつくろう」と愚直に努力を続けてきました。この姿勢はいまも変わりませんが、多種多様な人たちがいるグローバル市場では、いくら真面目に頑張ったところで、時代や環境の変化を見て、それに基づく戦略を立てなければ、その努力も報われることはありません。そして、そうした戦略のなさが、日本のものづくりに、何ともいえない閉塞感を蔓延(まんえん)させているように私には見えていました。(p.2)

●じつはサムスンには、独自の技術を使った製品がありません。それでいて日本の企業に勝(まさ)る大きな飛躍ができたのは、「社会が求めていることを実現するための手段としての技術」が日本よりも優れていたからにほかなりません。(p.6)

●サムスン・グループはグループ全体の売上が、韓国のGDPの15パーセントを超えるといわれる韓国最大の財閥です。(p.19)

●確かに「海外進出」自体は、日本企業も以前から積極的に行っています。多くの企業が早くから取り組み、海外に工場を持ったり海外の企業への投資を行っています。しかし、その実態は、従来と同じマーケティング手法や管理手法をそのまま海外に持ち出すだけの、単なる「日本流の移行」になっているケースが大半です。これは「国際化」ではありますが、「グローバル化」とはいえないのです。(p.24)

●李健熙会長の一声によってスタートした当時の大改革は、大きく3つに分類できます。それは「パーソナル・イノベーション(意識革新)」「プロセス・イノベーション(全プロセスの革新)」「プロダクト・イノベーション(革新的製品の創造)」の3つです。これらはそれぞれの頭文字をとって、「3PI運動」と呼ばれました。(p.43)

●こうしたグループの再編や人員の削減が大々的に行われるのと並行して、各企業では大胆な経費削減が当たり前のように始まりました。サムスン電子でも交際費や会議費、消耗品などの諸経費がすべて100パーセントのカットになりました。~(中略)~その意味では、まじめな社員にとっては消耗品の100パーセントのカットのほうがはるかにこたえたでしょう。仕事で使う鉛筆やボールペンなどをすべて自前で用意しなければならないのです。これ以降、オフィスからはコピー用紙が消えて、連絡事項は電子メールでやり取りするようになりました。ちなみに、これは結果として、ITの活用を後押しすることになりました。主たる目的は節約だったはずですが、それが思いもかけず、プロダクト・イノベーションやプロセス・イノベーションのためにつくられた新しいシステムを機能させることにつながったのです。これは最初からそこまで意識していなかったので、まさしく"怪我の功名"でした。(p.68)

●大きな危機を迎えているという点では、2008年から09年に日本の企業が置かれている状況もまったく同じです。しかし、多くの企業人と話していて感じるのは、日本ではとくに大手企業の人で、本当の意味での「危機意識」を持っている人は、ほとんどいないということです。(p.71)

●韓国は個人主義の国なので、仕事にプライベートな時間をとられることは基本的に嫌がります。そのため人力開発院での泊まり込みの教育や、終業後の自己啓発活動は、ふつうは反発の対象になります。それがスムーズにできたのは、これらが単なる押し付けではなく、一定の配慮のうえに行われたからです。~(中略)~また、日頃の配慮も手厚く行われていました。社員の誕生日や結婚記念日には必ず、李健熙会長名でプレゼントが贈られたのです。~(中略)~さらにすごいのは、社員に子どもができると、その子どもが小学校に入学し、大学を卒業するまでの学費を会社が全額支給するという制度があるのです。これは「生活に不安があると仕事に悪影響を来す」という考え方から行われていたようです。この社員子女の学費支給はIMF危機後も続けられました。(p.85)

●地域専門家というのは、世界各国に散らばって情報のキャッチアップや戦略的マーケティングのための活動を行っている人たちのことです。彼らは自分が活動している国の文化について、そこに住む人と同じか、それ以上に深く精通しています。(p.87)

●海外で活動する人の教育というと、ふつうはその国の言葉を学ばせる程度のことしか行いません。~(中略)~ところが、サムスンではその程度で終わらせず、その国の文化まで徹底して学ばせています。これは表面的ではない、人々の好みや考え方などに至るまでを理解している、戦略的なマーケティング活動ができる本物の地域専門家を育成するのが目的です。(p.88)

●一方、彼らを教育する講師陣の構成のほうもなかなかユニークです。日本語科を例にとると、講師が5人(もちろん全員日本人です)いるとすると、純粋に言葉としての日本語を教えるのは2人だけです。あとの3人は、カラオケや生け花など、日本の文化を教えるのが役割です。そして、これらネイティブと寝食を共にする環境の中で、彼らは日本の文化や日本人の考え方、あるいは好みのようなものまでを徹底的に学ぶのです。そして、このカンヅメ教育が終わると、現地での半年から一年程度の実地研修が待っています。研修といっても、こちらはとくに決まったプログラムがなく、その国でただ好き勝手に過ごせばいいというアバウトなものです。~(中略)~会社への報告義務はありますが、この期間をどこでどのように過ごすかは基本的に自由です。極端なことをいえば、日本語科で学んだ人は、日本に行ってパチンコ屋に通い続けるという生活をしても一向に構わないのです。ただし、この実地研修には、「現地支社の助けを一切借りてはいけない」というルールがあります。~(中略)~交通費や滞在費用はすべて会社が負担しますが、航空券から住むところの手配までの一切を自分一人でやらなければならないのです。(p.89)

●サムスンには、自分で考えて行動できるタイプの人がたくさんいます。社内文化として根付いているといってもいいでしょう。そのルーツを、韓国は個人主義の国だというところに求める見方も、確かにできます。しかし、自分で考え行動するということが一つの社内文化になっているのは、やはりそうした訓練を教育の中に組み込んでいたり、そのように行動することを組織として奨励しているからということが大きいのではないでしょうか。(p.90)

●つまり、海外でビジネスを成功させるには、きちんと現地に行ってその場所の文化を知ることまでを含めた市場調査を行うのが大事なのです。実際、世界ではこのような活動が当たり前のように行われています。日本流の「良い物をつくれば売れる」というやり方だけでは、世界の市場で生き残っていくことは難しいのです。(p.92)

●こういう、細かいことにまで口を出さないという姿勢は、日本の経営者にも大いに学んでもらいたいところです。日本の経営者は、部下に対して何でもかんでもいちいち細かく指示をしてしまう傾向があります。現場のことをよく知っているからそうなるのかもしれませんが、これは組織のトップとして失格です。そもそも指示されることに慣れてしまうと、下にいる人間は何も考えなくなってしまいます。そのうちに上から指示がないと動けなくなってしまうということが必ず起こります。こうしてその組織はどんどん危機に対応できない組織になっていくのです。こういう状況に陥らないようにするには、社員が自分で考えて行動する機会を増やすしかありません。そして、そういう環境をつくることこそが、組織のトップや上に立つ者の役割なのです。(p.99)

●繰り返しになりますが、トップの最大の役割は、戦略を考え、それを組織全体に示すことです。それは価値づけを行って組織全体に徹底させることでもあります。これは現場のことを知らなければできないというものではありません。もともと現場は、細かい指示など望んでいません。一番欲しいのはどの方向に進むべきかという戦略なのです。もちろん、トップが考えた戦略が、現場の不利益になることも時にはあります。そういう場合でも、厳しい判断をするのが本当の組織統治です。現場の利益を守ることで、組織全体が不利益を被るようなことがあったら、それは本末転倒です。(p.107)

●このように図面が大きな役割を果たしていたのが、アナログものづくりで、この時代はまさしく日本の独壇場でした。昔の図面は、立体形状をしているものでもすべて紙の上の二次元の世界に表現していました。これを見ながら立体を思い浮かべるには、図面を正確に読む図学の知識が必要でした。図学は日本では学校で当たり前のこととして教えていましたが、海外はそうではなかったので、だからこの時代は日本がものづくりで世界を圧倒することができたわけです。ところが、三次元CADの登場によって、状況は大きく変わりました。ものづくりに図学の知識が必要なくなったのです。~(中略)~部品の配置も組み立て方もすべてコンピュータの画面上に三次元の情報として示されているので、現場は余計なことを考えずに、ただ見たとおりのままに作業をやればいいわけです。そして、これがものづくりで先行していた日本と後発の国々との差を一気に縮める大きな要因となりました。(p.119)

●その状態からようやく脱却したのは、やはりIMF危機を経た1998年以降です。じつはこの頃、会長の鶴の一声で、日本のメーカーに勤めていた設計者の採用を積極的に行いました。これは「ジャパン・プロジェクト」と呼ばれましたが、日本国内というより、海外の現地法人で働いていた日本人設計者を採用するケースが多かったようです。(p.157)

カギの掛かる冷蔵庫マルチリンガルのテレビなども、インドでは定番のヒット商品になっています。社会格差が大きく、使用人に食べ物を盗まれることが多いので、このような機能を持つ冷蔵庫が求められているのです。~(中略)~またイスラム圏では、礼拝の時間(一日5回)になると自動的に画面が切り替わってコーランが流れる韓国のLG製のテレビが爆発的に売れているそうです。一方、ヨーロッパではワイングラス型のサムスン製のテレビが人気を博しています。こちらは価格ではなく、生活事情に合わせたデザインを売りにしています。このテレビは画面までの高さがあるので床の上に直接置けます。わざわざテレビ台を置かなくていいから、部屋を広くかつおしゃれに使えるわけです。日本の感覚でいうと、これらはいずれも日本製のものより品質が劣っています。それでも売れるのは、それぞれの製品がその地域の消費者が本当に望んでいる要素を備えているからです。このような製品を提供するのがサムスンのグローバル戦略なのです。(p.164)

●最近はようやく日本企業も地域に合った商品企画を考えるようになりました。たとえばブラジルでは、野外に持ち出すことができる大音響のパナソニック製のミニコンポが爆発的に売れています。~(中略)~また電機製品の話ではありませんが、最近コマツは、中国向けの小型ショベルを開発しました。中国では日本に比べはるかに土地が広いので、ショベルのアームを後ろに小さく旋回させる必要がほとんどありません。そのためアームを小さく旋回させる機能の代わりに、安定性を重視する設計になっているのです。(p.166)

●こうした消費者目線での工夫は、故障などによる顧客からのクレームの処理でも徹底されています。サムスンには「体感不良率」という考え方があります。これは顧客の不満こそが製品の不良である、ということを意味しています。そして、その発生率をいかに下げるかを目標にしているのですが、その際に優先しているのは顧客の満足度です。たとえばこれは韓国国内でのみ行っていることですが、ソウルをはじめとする都市部では常にメンテナンスを行うスタッフがクルマで巡回しており、コールセンターが顧客からクレームを受けた場合は、1時間以内に顧客のもとを訪れて、故障した製品の部品をその場で交換するなどの対応を行っています。(p.171)

●その場で基板やモーターを丸ごと交換するという修理の方法は、見方によっては非常に乱暴な対応といえます。交換した基板がそのまま捨てられてしまったりすると、故障原因を正確に特定することは難しいし、それを次の製品の開発にフィードバックすることが困難になります。しかし、それはあくまでもメーカーの都合にしかすぎません。サムスンの場合は、次の製品で不良が発生することより、現に生じている問題を素早く解決することを優先しているわけです。それは顧客重視の考え方をしているからです。製品の質が向上することで確かに顧客も恩恵を受けますが、そのようなものは故障への対応が遅いことで被る不便さの前にはすべて吹っ飛んでしまいます。どちらが顧客満足度が高いかは明らかではないでしょうか。こうした顧客へのサービスも品質の一つなのです。(p.172)

●新興国の代表である「BRICs」(ブラジル[Brazil]、インド[India]、中国[China]、ロシア[Russia])4カ国の人口を合わせると世界の約40パーセント、国土面積でも約30パーセントを占めています。~(中略)~単純に人口で比較してみても、中国一国でアメリカ(3億2000万人)の4倍強、日本(1億3000万人)の10倍以上です。(p.202)

●何よりも問題なのは、グローバル時代への備えに対する日本人の意識の低さです。それはたとえば、海外での活動に際して、「英語を勉強すれば大丈夫」と安易に考えている人が多いことからも容易にうかがえます。グローバル展開で求められるのは、国や地域によって異なる価値観や考え方を理解することです。それは英語を話せるようになっただけで理解できるようなものではありません。(p.204)

●いま求められているのは、自分で考え、決断し、行動することです。次代を担う戦略づくりは、そのような主体的な動きをした先にあります。ただし、これは一社員の努力によってなんとかなるものではありません。実際、組織の中で一社員がそのように振る舞ったら、すぐにはじき飛ばされるのが現実です。組織の文化や考え方を変えることができるのはトップだけです。その意味では、環境づくりを含めてトップに大きな期待と責任がかかっているといえます。(p.218)

●「はじめに」でも述べましたが、そもそも日本の多くの企業が「自分たちは技術力がある」と思い込んでいること自体が、一種の傲慢なのです。実際、いまの日本の企業には、サムスンやタタ自動車のような新興市場向けの安価な製品をつくる技術はありません。もちろんお金をかければ同じようなものをつくることができますが、それではビジネスとして成立させることができません。にもかかわらず、「自分たちは技術力がある」と信じて疑わないのは、傲慢以外のなにものでもありません。革新的なものをつくることだけが技術力ではありません。本当に技術力があるなら、新興市場に打って出て立派にビジネスとして成立させることも容易にできるはずです。残念ながら、いまの日本にはそのような技術力を持つ企業はほとんどありません。私たちはそのことをまず謙虚に認めるべきです。(p.219)
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